2010年10月11日月曜日

つながる脳

藤井直敬のつながる脳を読んだ。

ある環境下に置かれた時の振る舞いと脳の構造を研究しようとする試みについて書かれたもの。

筆者は、社会構造を操作する能力を”社会脳”と定義し、自分のやりたいことを実現するために、社会という目に見えない構造を上手に操作し、さらにその場の空気にあった正しい振る舞いを選ぶための適応的な脳の働きと解説している。

脳科学には、4つの壁があるらしい。

1つは、技術の壁。通常、脳科学の世界では再現性の無いものは扱わないという。人工的に作った定常状態下での脳機能を観察するというのが一般的らしい。

2つ目は、大規模神経細胞活動データを対象とした関係性解析手法では、大容量のデータを扱というスケールの壁。

3つ目は、こころの壁。どこに向かうのかわからない探索型の研究には予算もつかず、仮説検証型が一般的であり、これが研究の可能性を狭めている。

4つ目は、社会の壁、実験に対する倫理面での問題。例えば、BMI(BrainMachineInterface)という技術があるが、これは脳と外部の人口システムをつなくための技術で、これにより外部から脳の操作が可能になり、自己の境界が曖昧になってしまうなど、倫理面での問題があるという。

筆者が取り扱うのは、社会脳、つまりある環境下における人と人との相互作用における脳の働きであり、4つの壁に照らし合わせても非常にチャレンジングなテーマであることがわかる。

サルの研究で、4つの壁に挑戦した実験が書かれており、社会脳の結論は未だでていないが、その実験の内容が非常に興味深い。

サルの研究からわかった1つのこと、「抑制こそが社会の根本」というのだ。サルの協調行動は社会的抑制を獲得した後に、実現された機能であるという。下位のサルは、生き残るために、常に環境に気を配っており、社会的適応知性が高いという。

ちょうど、つながる脳と同時に、「蟹工船」を読んでいたので、”抑制”ということばが、妙に頭の中で繋がった。抑圧された劣悪な環境下で、自己を抑制しつつ最初は「監督」の理不尽な言動に耐えつつも、力関係によって1つの社会が形成されている。ところが、ある工員の行動から、工員同士の協調による反発(ボイコット)を起こす。怒り狂った監督は、主犯格の工員を殺してしまう。工員たちは、ならば主犯格を決めずに立ち向かおうとした所で物語は終わる。

或る程度我慢することで、社会的な問題を引き起こさずに生きれるとしても本当に、他者と関わりをもたずに生きていくことができるのだろうか?
ある心理ゲームと脳の反応から、ヒトは、他者と関係を継続すること他者から社会的に認められて奉仕する時に、喜びを感じると筆者は言う。
 他者を丸ごとリスペクトする気持ちが、人と人との関係を良くし、それによりより良い社会が形成されるというのが結論である。

他者を丸ごとリスペクトは、進化した脳の姿なのか???
丸ごとリスペクトまではいかないまでも、他者を受け入れる気持ちの余裕は欲しいものだ。